長引く咳を考えるシリーズ
その長引く咳、本当に咳喘息?|肺NTM症を専門的に診てきた医師が解説
先日の読売新聞夕刊で、肺NTM症が大きく取り上げられていました。
肺NTM症は、以前と比べて耳にする機会が増えた病気ですが、
「結核とは何が違うのでしょうか?」
「人にうつる病気ですか?」
「健診の胸部レントゲンで異常を指摘されたけれど、症状がありません」
「咳喘息として治療しているのに、咳がなかなか治りません」
といった疑問を持つ方も多いと思います。
肺NTM症は、急激に悪化する肺炎とは異なり、年単位でゆっくり進行することがあります。
症状が軽いため見逃されることもあれば、「咳喘息」「体質」「年齢のせい」と考えられ、診断まで時間がかかることもあります。
肺NTM症とは?
NTMは、Nontuberculous Mycobacteriaの略で、日本語では「非結核性抗酸菌」と呼ばれます。
結核菌と同じ抗酸菌の仲間ですが、結核菌とは異なる細菌です。
NTMは、土、水、ほこりなど、私たちの身近な環境に広く存在しています。
現在、非常に多くの種類が知られていますが、日本の肺NTM症では、マック菌による肺MAC症が多くを占めます。
肺NTM症は、環境中の菌を吸い込むことなどによって発症すると考えられています。
通常の肺NTM症では、結核のように患者さんを隔離する必要はなく、日常生活の中で人から人へ感染する病気とは一般に考えられていません。
どのような症状が出ますか?
肺NTM症では、次のような症状がみられることがあります。
- 咳が長く続く
- 痰が出る
- 血痰が出る
- 息切れがする
- 微熱が続く
- 疲れやすい
- 食欲が低下する
- 体重が減る
ただし、初期には症状がほとんどない方も少なくありません。
健康診断や、別の理由で撮影した胸部レントゲン・CTをきっかけに見つかることもあります。
中高年の痩せ型女性に多い病気ですか?
肺NTM症、特に気管支拡張を伴う肺MAC症は、中高年の痩せ型女性に多くみられることが知られています。
しかし、痩せ型女性だけの病気ではありません。
次のような方にも起こることがあります。
- 気管支拡張症がある
- 過去に結核を患ったことがある
- COPDや肺気腫がある
- 間質性肺炎がある
- 胸郭の変形がある
- 免疫を抑える薬を使用している
- 胃食道逆流や飲み込みの問題がある
- 喫煙歴がある
特に肺に空洞をつくるタイプでは、進行が速いことがあり、注意が必要です。
長引く咳を、すべて咳喘息と考えてはいけません
長引く咳の原因として、咳喘息はよく知られています。
しかし、長引く咳のすべてが咳喘息ではありません。
ほかにも、
- 肺NTM症
- 結核
- 肺がん
- 慢性気管支炎・COPD
- 気管支拡張症
- 間質性肺炎
- 副鼻腔炎
- 胃食道逆流症
- 薬の副作用
など、さまざまな原因があります。
吸入薬で少し楽になったとしても、それだけで咳喘息と確定できるわけではありません。
吸入治療を続けても咳が改善しない場合や、痰、血痰、体重減少、胸部レントゲン異常などがある場合には、診断を一度見直す必要があります。
胸部レントゲンだけで診断できますか?
胸部レントゲンは、肺の異常を見つけるための大切な入口です。
肺NTM症では、
- 小さな粒状影
- 斑状の陰影
- 気管支拡張
- 空洞
- 肺の一部が縮んだような変化
などがみられることがあります。
しかし、初期の病変や細かな気管支拡張は、胸部レントゲンだけでは分かりにくいことがあります。
肺NTM症が疑われる場合には、胸部CTが非常に重要です。
当院では胸部レントゲンを撮影し、CTが必要な場合には、Seeds Clinic新宿三丁目やメディカルスキャニング東新宿などの画像診断施設と連携して検査を進めます。
CTに異常があれば、肺NTM症と診断できますか?
CT画像だけでは、肺NTM症と確定できません。
肺NTM症の診断には、
- 咳や痰などの症状
- 胸部レントゲン・CTの所見
- 喀痰検査で確認された菌
- 結核やほかの肺疾患の除外
を組み合わせて判断します。
NTMは環境中に存在するため、痰から一度検出されただけでは、肺NTM症と確定できないことがあります。
国際的な診断基準では、同じ種類のNTMが複数回の喀痰培養で確認されることが、診断上重要とされています。
痰が出にくい場合には、喀痰を出しやすくする方法や、専門医療機関で気管支鏡検査を検討することもあります。
肺NTM症と診断されたら、すぐ治療を始めますか?
肺NTM症は、診断された方全員が直ちに薬を飲み始める病気ではありません。
比較的ゆっくり進行する方も多く、症状や画像の変化を確認しながら経過観察を選択する場合があります。
一方で、
- 症状が強い
- 画像所見が悪化している
- 喀痰の排菌量が多い
- 肺に空洞がある
- 病変の範囲が広い
- 体重が減少している
- 肺機能の低下が心配される
といった場合には、治療開始を積極的に検討します。
大切なのは、単に「菌が出たから薬を飲む」「症状が軽いから何もしない」と決めることではありません。
菌の種類、薬剤感受性、症状、CT所見、進行速度、年齢、ほかの病気、患者さんの希望などを総合して判断します。
治療には時間がかかります
肺MAC症では、一般に複数の抗菌薬を組み合わせて治療します。
代表的な薬は、
- マクロライド系抗菌薬
- リファンピシン系薬
- エタンブトール
などです。
病状によっては、アミカシンなどを追加することもあります。
治療期間は長く、国際的な指針では、痰の培養検査が陰性化してから少なくとも12か月間の治療が推奨されています。
そのため、治療中には、
- 肝機能障害
- 視力や色覚への影響
- 聴力への影響
- 消化器症状
- ほかの薬との相互作用
などを確認する必要があります。
長期間薬を飲めばよいという単純な治療ではありません。
効果と副作用を確認しながら、治療を継続できるよう調整することが大切です。
「治療を始める時期」の判断が重要です
肺NTM症の難しいところは、治療方法だけではありません。
いつ治療を始めるのか。
まだ経過を見てもよいのか。
薬による利益が、副作用や日常生活への負担を上回るのか。
この判断が非常に重要です。
早く治療を始めれば、すべての方に利益があるとは限りません。
一方、経過観察を続けている間に病変が進み、治療が難しくなることもあります。
そのため、治療せず経過を見る場合にも、症状、体重、喀痰検査、胸部画像などを定期的に確認します。
「治療しない」と「何もしない」は違います。
肺NTM症の診療経験について
私は病院勤務時代、肺NTM症を含む抗酸菌症の診療に長く携わってきました。
国立病院機構東京病院に勤務していた頃には、大学病院や都内の医療機関などから、治療の難しい患者さんについてご相談や治療依頼を受けることもありました。
肺NTM症について国内外の学会で発表した経験があり、東京大学医学部の非常勤講師として、肺NTM症に関する授業も担当していました。
肺NTM症は、診断名を付けるだけで終わる病気ではありません。
画像の変化、菌の種類、治療を始める時期、薬の組み合わせや副作用などを確認しながら、一人ひとりに合った治療方針を考える必要があります。
これまでの診療経験を、現在の地域医療にも生かしていきたいと考えています。
長引く咳や胸部レントゲン異常をご相談ください
次のような方は、一度呼吸器の病気を確認しましょう。
- 咳や痰が長く続いている
- 咳喘息の治療を受けても改善しない
- 血痰が出た
- 健診の胸部レントゲンで異常を指摘された
- CTで気管支拡張や小さな影を指摘された
- 肺MAC症・肺NTM症の可能性を指摘された
- 肺NTM症と診断されたが、治療を始めるべきか迷っている
- 治療中だが、薬の副作用や今後の見通しが心配
肺NTM症は、症状だけでも、画像だけでも、痰の検査だけでも判断できません。
それぞれの情報を組み合わせ、時間の経過も見ながら診断と治療方針を考えることが大切です。
新宿イーストサイドたけうち内科では、胸部レントゲン、呼吸機能検査、血液検査、喀痰検査などを行い、必要に応じて近隣施設でのCT検査や専門医療機関への紹介につなげます。
当院は、東新宿駅A3出口直結、新宿イーストサイドスクエア地下1階にあります。
新宿イーストサイドたけうち内科
院長 竹内惠理保
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参考
日付: 2026年9月10日 カテゴリ:ブログ












