山の日特別編
登山中の息切れ・胸痛・動悸を「山だから」で済ませないで|高山病・熱中症・心臓病の見分け方
今日は「山の日」です
8月11日は、「山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する日」として設けられた国民の祝日です。
夏休みを利用して、登山やハイキングを楽しむ方も多いと思います。
山の景色や澄んだ空気は、日常では味わえない魅力があります。
一方で、登山中に、
「いつもより息が切れる」
「胸が苦しい」
「心臓がドキドキする」
「頭が痛い」
「気持ちが悪い」
と感じても、
「山を登っているのだから当然だろう」
「運動不足だから仕方ない」
「もう少しで山頂だから頑張ろう」
と、無理をしてしまう方が少なくありません。
しかし、山で起こる体調不良の中には、高山病、脱水、熱中症、不整脈、狭心症、心筋梗塞など、放置すると命に関わる病気が含まれています。
登山中の体調不良を、すべて「疲れ」で済ませてはいけません。
山では心臓や肺に大きな負担がかかります
登山では、長時間の運動に加えて、坂道、荷物、気温、湿度、標高など、さまざまな要因が体に負担をかけます。
標高が上がると空気中の酸素が少なくなるため、体は酸素を全身へ届けようとして、呼吸数や心拍数を増やします。
さらに夏山では、発汗による脱水も加わります。
脱水によって体内の水分量が減ると、血圧や血流を保つために、心臓はより多く働かなければなりません。
その結果、
- 動悸
- 息切れ
- めまい
- 胸の違和感
- 強い疲労感
などが現れることがあります。
健康な方でも起こりますが、高血圧、糖尿病、脂質異常症、心臓病、肺の病気がある方では、より大きな負担になる可能性があります。
頭痛や吐き気は、高山病かもしれません
一般に標高2,500m前後を超えると、高山病を起こす可能性が高くなります。
急性高山病の代表的な症状は、
- 頭痛
- 吐き気
- 食欲低下
- めまい
- 強い疲労感
- 眠りにくい
などです。
「寝不足だろう」
「食事をしていないからだろう」
「二日酔いのようなものだろう」
と思って、さらに高度を上げるのは危険です。
高山病の症状が出た場合は、症状が改善するまで、それ以上登らないことが原則です。
休んでいても悪化する場合には、速やかに標高の低い場所へ下りる必要があります。
山頂へ行くことより、安全に下山することの方が大切です。
息苦しさやふらつきは、重い高山病の可能性があります
高山病が重症化すると、高地肺水腫や高地脳浮腫を起こすことがあります。
次のような症状は危険です。
- 休んでいても息苦しい
- 咳が強くなる
- 歩く速度が極端に遅くなる
- まっすぐ歩けない
- ふらついて転倒する
- 受け答えがおかしい
- 強い眠気がある
- 意識がもうろうとしている
このような場合は、その場で様子を見続けてはいけません。
本人に歩かせて無理に下山させることも危険です。
救助を要請し、可能であれば酸素を使用しながら、速やかに低い場所へ移動させる必要があります。
夏山では、標高が高くても熱中症になります
「山の上は涼しいから、熱中症にはならない」
とは限りません。
直射日光、長時間の運動、発汗、水分不足によって、標高の高い場所でも熱中症は起こります。
特に、
- トイレを心配して水分を控える
- 水を重く感じて持参量を減らす
- のどが渇くまで飲まない
- 休憩を取らずに歩き続ける
- 前日の飲酒が残っている
といった行動は、脱水の危険性を高めます。
頭痛、吐き気、だるさ、めまいは、高山病でも熱中症でもみられます。
現場で完全に区別することは簡単ではありません。
大切なのは、原因を自己判断して無理に進むのではなく、いったん立ち止まり、休憩と水分補給を行い、改善しなければ下山を判断することです。
胸痛や動悸を「登山のせい」にしないでください
登山中に胸が痛い、胸が締め付けられる、胸が圧迫される、胸が重いと感じた場合には、狭心症や心筋梗塞も考える必要があります。
特に、
- 胸の中央が締め付けられる
- 胸の圧迫感が続く
- 痛みが腕、肩、背中、首、顎へ広がる
- 冷汗を伴う
- 吐き気を伴う
- これまでにない強い息切れがある
場合は、単なる疲労と考えてはいけません。
また、
「心臓が急にドキドキする」
「脈が飛ぶ」
「脈がバラバラになる」
「動悸とともにめまいがする」
という場合には、心房細動や頻脈性不整脈などが起きている可能性があります。
山の中では、病院へ到着するまでに時間がかかります。
「あと少しだから山頂まで行こう」
「下山すれば治るだろう」
と無理をせず、早い段階で行動を中止してください。
このような症状は、すぐに救助を要請してください
登山中に次のような症状がある場合は、無理に歩き続けず、速やかに救助を要請してください。
- 強い胸痛や胸の圧迫感
- 安静にしても改善しない息苦しさ
- 意識が遠のく、または失神した
- まっすぐ歩けない
- 受け答えがおかしい
- 呼びかけへの反応が悪い
- 唇や顔色が紫色になっている
- ろれつが回らない
- 片側の手足が動かしにくい
- 動悸が続き、立っていられない
携帯電話がつながる場所であれば、119番へ連絡し、山の名前、登山ルート、現在地、標高、症状などを伝えてください。
登山アプリやスマートフォンの位置情報が確認できる場合は、緯度・経度も伝えます。
単独で行動せず、体調の悪い方を一人にしないでください。
登山前の準備が、山での命を守ります
安全な登山のためには、体力だけでなく準備が大切です。
登山前には、
- 無理のない行程を計画する
- 単独登山をできるだけ避ける
- 登山届を提出する
- 家族に行程と下山予定時刻を伝える
- 天候を確認する
- 十分な水分と食料を準備する
- 防寒具と雨具を携帯する
- 常用薬を忘れずに持参する
- 前日の深酒を避ける
- 寝不足のまま出発しない
といった準備を行いましょう。
体調が悪いときに予定を中止することも、重要な登山技術の一つです。
心臓や肺に持病がある方は、登山前にご相談ください
高血圧、狭心症、不整脈、心不全、喘息、COPDなどの病気がある方でも、状態が安定していれば登山を楽しめる場合があります。
ただし、登る山の標高や行程、現在の病状によっては、事前に検査や薬の調整が必要です。
特に、
- 階段で胸が苦しくなる
- 最近、息切れが強くなった
- 動悸や脈の乱れがある
- 血圧が十分に管理できていない
- 健診で心電図異常を指摘された
- 長期間、心臓の検査を受けていない
という方は、登山前に一度ご相談ください。
必要に応じて、心電図、胸部エックス線、血液検査、心エコーなどを行い、安全に登山できる状態かを確認します。
山頂だけではない、富士山の新しい楽しみ方
今回の記事でお伝えしたいのは、山頂へ到達することだけが登山の価値ではない、ということです。
当院ともご縁のあるアメアスポーツジャパンが展開するスポーツブランド「サロモン」は、富士吉田市とともに、**「Mt. FUJI Re-Style Project」**を進めています。
富士山を五合目から山頂まで登るだけではなく、古くから続く吉田口登山道や「富士みち」を歩き、富士吉田に根付く歴史・文化、地域の人々、自然とのつながりを改めて楽しもうという取り組みです。
速く登ることや山頂へ到達することだけを目的にせず、自分の体調や体力に合わせながら、山麓も含めて富士山を味わう。
これは、安全に山を楽しむという意味でも、とても良い提案だと思います。
富士山の新しい楽しみ方に興味のある方は、ぜひご覧ください。
サロモン「Mt. FUJI Re-Style Project」
引き返す勇気も、立派な登山です
私はこれまで、胸部外科、循環器診療、呼吸器診療、救急・集中治療の現場で、心臓や肺の病気を数多く診療してきました。
体調不良が起きたとき、街中であれば、すぐに心電図や血液検査を行えます。
しかし、山では医療機関へ到着するまでに何時間もかかることがあります。
だからこそ、山では早めの判断が重要です。
「せっかくここまで登ったから」
「仲間に迷惑をかけたくないから」
と無理をしてはいけません。
登頂することより、全員が無事に帰ること。
山の日をきっかけに、山の魅力だけでなく、安全な登山についても考えてみてください。
新宿イーストサイドたけうち内科では、登山前の体調相談や、登山中・下山後に起きた胸痛、息切れ、動悸などの診療にも対応しています。
東新宿駅A3出口直結、新宿イーストサイドスクエア地下1階にあります。












